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《STEAK&BBQ》“美味しいステーキの焼き方”〜肉のプロフェッショナルが語る〜


「家でも美味しいステーキを食べたい!」そのためには、いつものスーパーでどんな肉を選べばいいのか? そんな疑問を持つ人も多いだろう。良い肉が手に入り、その素材の良さを最大限引き出したいとYouTubeやインターネットで調べる人もいるだろう。しかしここでは、焼き肉ふたごニューヨーク店の立ち上げや運営に関わり、現在は和牛などの卸肉業を営むトモエ・フード・サービシーズの営業マンとして活躍する肉のプロフェッショナル、酒井さん直伝の「アメリカで、美味しいステーキ肉を選び、そして焼く方法」を聞いてみたい。

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お肉の選び方

部位で言えばリブアイ、もしくはストリップロインであれば間違いはありません。できればプライムグレードのお肉がベストですが、一般のスーパーではあまり見かけないので、少なくともチョイスグレード以上のお肉を選ぶようにしてみてください。ちなみに、コスコのお肉は意外とクオリティが高く、プライムグレードのものも入手できます。もちろん好みにもよりますが、肉の中心あたりに程よいサシ、マーブリングが入っているものを選ぶと良いと思います。

色は鮮やかな赤色をしているものだけ選び、くすんだ色のものは決して選ばないようにしましょう。お肉は元々空気に触れておらず、真空パックに入っている状態で発色することはありません。お肉屋さんがステーキカットにする段階で肉が酸素と化学反応を起こして赤く発色し、この発色がしばらくすると酸化が進み、鮮やかさが失われて黒ずんできます。ここでのポイントは、陳列棚のライトはお肉を美味しく見せるための魔法の光ですので、必ず一度手に取ってから肉の色味を確かめるようにしてください。

それと、パック内にドリップ(肉の内部から分離して出る液体))が出ていないものを選ぶこと。ドリップが出ている=旨味が失われているということです。個人的には、ターゲットなどにもある「真空パックのお肉」がお勧めです。酸化することはありませんし日持ちもします。ウエットエイジングとは似て非なるものではありますが、真空状態での冷蔵で少しずつ熟成のような感じが出てきます。ステーキに関して言えば冷凍で保管、販売されているものは避けてください。陳列された状態で、すでに冷凍・解凍が繰り返されている可能性があります。凍る時の結晶が肉の細胞を傷つけ、そこからドリップが出ます。2フローズンでお肉の旨味はほぼ抜け落ちてしまい、それは赤身であればなおさら顕著となります。

お肉の保管方法

お肉は、賞味期限内に食べ切ってしまうのがベストですが、もし大量に購入し冷凍するのであれば家庭の冷凍庫の冷凍室で冷凍しても問題ありません。

① 表面の水分をしっかりと取り、それになるべく空気が入らないよう密着させるようにラップをします。できれば二重にします。

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② それをさらにジップロックに入れ、極力お肉を保護するようにしてください。真空にすることで「冷凍焼け」を防ぐことができます。

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③ さらにこだわるのであれば、熱伝導率の良いアルミのトレイなどに乗せてできる限り早く冷凍状態に持っていきます。これが、お肉を美味しく保つ秘訣です。業者の持つ冷凍庫とは異なり、家庭の冷凍庫は緩慢冷凍でゆっくりと冷凍していくため、そこでできる氷の大きな結晶が肉の細胞を傷つけてしまいます。

問題は解凍です。解凍は、冷蔵庫でゆっくりと時間をかけて解凍するのがベストです。お肉を食べる前日の夜か当日の朝に、冷蔵庫に移して解凍を始めます。常温解凍は絶対にNGです。解凍前の温度と解凍時の温度が開いていれば開いているほどドリップが出てしまい、お肉の品質が劣化します。ですので、冷凍庫からまずは冷蔵庫に移し、じっくり、ゆっくりと解凍します。できれば24時間、最低でも12時間ぐらいは解凍の時間に充ててください。これは、美味しいステーキを食べるのに非常に大事なポイントです。摂氏0度に近い状態で解凍できていれば、ドリップは少なく抑えられます。

ステーキの焼き方

それではステーキを焼いていきましょう。解凍したお肉は、焼く前に必ず常温に戻すということを忘れないでください。冷蔵庫から出してすぐ冷たいままのお肉を強火で焼くと、一気に硬くなってしまいます。もちろん調理法で対応できるのですが、基本的には冷蔵庫から出し、その時の気温とステーキの厚さに合わせて30分から1時間程度、常温で戻してください。温度変化の差が少なければ少ないほどお肉に余計なストレスが加わらず、お肉の収縮硬化を防げます。

味付けのポイントは、常温に戻す過程で、下味をつける程度の塩を振ることです。「水気と一緒に旨みが出てしまう」「肉が硬くなってしまう」という反対意見もありますが、ある程度の塩味が入った状態の方が、ステーキの旨みを感じられると私は思います。目安はUSDAプライムならお肉の重量に対して1%くらいです。350グラム(12オンス)のお肉であれば大体3.5グラムぐらいでしょうか。胡椒はお勧めしません。胡椒は粒が粗く、焼いている時にフライパンの上で焦げてしまうので、胡椒のフレーバーを味わいたければ、食べる直前に胡椒を挽くのがベストです。

ステーキを焼く際の火加減は、基本的にずっと中火です。大切なのは「ゆっくりと火入れすること」です。美味しいステーキを食べたければ、ゆっくり火入れ。非常に時間がかかる面倒な作業ですが、ゆっくり火入れしたステーキと急いで焼いたステーキでは、同じお肉でも味わいも硬さも食感も全く違うものになります。

① 中火で熱したフライパンの中央にお肉を置きます。片面30秒から1分(時間は厚さによる)焼いてひっくり返し、両面を焼く。厚いお肉であれば、両面に加えて側面も同じ過程で必ず焼くようにしてください。ここである程度表面に焼き目を着けておかないと、横から肉汁が逃げてしまいます。ミディアムレアなら1分程度が丁度良いです。

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② 火を止めて、鉄板ではなく、皿やバットやトレイ等の上にアルミホイルを敷き、肉を包んでお肉を2〜3分休ませます。イメージとしては、トレイなどの熱をステーキに伝える感じです。そこでじんわりと火入れが進んでいきますので、「鉄板の上で焼く」感じではありません。蓋をするか、もしくはアルミホイルに包んで休ませることで、旨味を全体的にうまく閉じ込める効果もあります。

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③ これを3、4セット繰り返します。ゆっくりと火入れすることで、じんわりと熱がお肉に入るため、お肉自体がふんわり柔らかく焼けるのと同時に、焼きムラもなく見た目にも美味しそうなステーキに仕上がります。

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④ そして最後のセットの時に、この時だけ強火にして表面にカリッとしたクラスト状態を作ります。メイラード反応といって、これも旨味ポイントです。片面10秒程度ささっと強火で熱してあげて、最後にもしっかり2、3分休ませます。ここでは、肉汁を中で落ち着かせる目的があります。焼きたてのお肉をすぐに切ると、肉汁が大量に漏れしてしまいます。シズル感があっていいのですが、それはつまり美味しさ逃げてしまっているということなので、焼けたら2、3分休ませて、少し落ち着かせてから食べてみてください。

レアで食べたい派の人でも、強火で一気に焼いてしまうと表面だけがカリカリと茶色く、中は火が入らずに冷たいグニュグニュした食感のステーキになります。目指すは、中は赤くても火がしっかりと行き渡り、まんべんなくロゼ色になっている最高の状態のステーキです。食べ比べてみれば分かります。同じお肉でも、本来その肉が持つ旨味や香りが出てくる焼き方をすることで、その美味しさは何倍にも何十倍にもなるのです。

では、USプライムと和牛では焼き方が違うのでしょうか? 基本スタイルは一緒ですが、赤身肉とサシの入った肉とでは熱の伝わり方が全然違うということを理解しておく必要があります。サシが多めの和牛の方が、早く焼けてしまうのです。ただ、基本的には「ゆっくり火入れ」であることは変わりません。USプライムなら4セット、和牛は3セットで良いかもしれません。その辺りはお肉の厚さなどを見ながら調整が必要です。USプライムも、厚さによっては3回か4回でいいかもしれませんし、少しミディアム感を出したい場合は5回セットにしてもいいです。とにかく「ゆっくり、ゆっくり」です。

美味しいステーキを焼くには時間がかかります。色々な意見があるので正解はありませんが、料理というものは、タンパク質が熱を加えることで化学変化を起こしていくことなので、料理の仕方で最後の味に差が出るのは頷けます。アメリカに住んでいるのですから、やはり美味しいステーキが食べたい気持ちは抑えられません。どこのステーキハウスでも使っているお肉はプライムグレードのもの。もちろんそこからドライエイジ熟成などの手が加わったりはしているのですが、適切な焼き方さえマスターすれば、家庭でも美味しいステーキが食べられるのです。ぜひ、次のステーキを焼く機会に、上記ポイントを押さえた焼き方にトライしてみてください。家庭ステーキのレベルがグンっと上がるのを感じて頂けるはずです。

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《監修》 酒井 純平

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所属
トモエ・フード・サービシーズ
肩書
営業
URL
https://www.tomoefoodservice.com/