法律・安全law safety
ドメスティック バイオレンス
〜4人に1人の女性が被害に遭うと言われる大きな社会問題〜
DVとは?
アメリカではドメスティックバイオレンス(以下DV)という用語は、現在および過去に交際関係、配偶者関係にある/あった者同士でおこる暴力関係・行為を示す言葉で、Intimate Partner Violenceとも表現されます。 近年日本でも、「家庭内暴力」に代わり、配偶者間暴力に対してはDVという用語が広く使われるようになってきました。DVは広義には交際関係にある二者間だけでなく、子どもから親へ、親から子どもへ、あるいは同居する親族から他の親族への暴力などを含めた総称として使われることもありますが、本文ではDVを「親密な関係にある二者間での暴力」として扱い、また、統計的に9割の被害者が女性であることから、加害者を「夫」あるいは「男性」、被害者を「妻」あるいは「女性」として表現します。(ただし、DVは社会的地位、性別、宗教、国籍、学歴などを問わず誰にでもおこる犯罪であり、男性でも被害者になる可能性がある事実を無視してはいけません。)
DVが成り立つ為には、対象になる二者間で次のような要素が見られることが必要です。 1. 暴力行為の存在、2. 暴力行為が相手を支配、コントロールする目的で使われている、3. 暴力行為が繰り返し起きている。中でも2が特に重要で、暴力がどのような目的で使われているかが、関係がDVにあたるかを見極める大きなポイントであると言えます。DV行為として認知される暴力行為の中には、殴る、叩くなどの身体的暴力だけでなく次のような行為も含まれます。
- 経済的暴力:経済的自立を故意に妨げる行為(仕事を辞めさせる、仕事に就かせない、被害者の収入を取り上げる、生活費を与えない、など)
- 性的暴力: 性行為の強要(避妊具を使用しない性行為およびそれによる予定外の妊娠、レイプなど)
- 言葉の暴力:罵倒・侮辱したりする行為
- 精神的暴力:外界との接触を禁止して孤立化させる、自尊心を損ねる、脅迫や威嚇行為を通じ被害者を精神的に束縛する。
また、国際結婚ではこれらの暴力行為に加え、被害者が永住権のスポンサーシップを配偶者である加害者に頼る必要があるため、それをネタに脅されることも起こります。
DVではこれらの暴力行為が単独で起きることは稀で、様々な暴力行為が重複して同時発生するのが一般的です。3で触れたように、DVでは暴力行為が同一二者間で繰り返し起きることが特徴的で、 暴力の深刻さや頻度は時間と共に悪化する傾向にあります。加害者はこれらの暴力行為を、被害者を支配下に置く為の方法として意識的に利用しており、「たまたま」暴力行為に及んだのではないことを理解する必要があります。その証拠に加害者が、被害者以外の第三者に同様の行為をすることはまずありません。次の図を見てください。暴力のサイクルと呼ばれている図で、DVが起きる仕組み表しています。
DVの関係では、何らかの暴力行為が起きた後に、「ハネムーン期」と呼ばれる信頼回復期が訪れることが往々にしてあります。暴力期を経て、加害者への信頼を失う被害者ですが、加害者が暴力に及んだことを真摯に謝ったり、ギフトを送ったり暴力が嘘だったかのように優しい人になるなどのハネムーン期が訪れると、被害者は次第に加害者への信頼を回復し、「彼も気持ちを入れ直した」などと考え、関係をとどめる判断をします。
一方加害者は、被害者の信頼を回復したのを確認すると、緊張期と呼ばれる時期に、いらだちをあらわにしたり、 再び被害者に当たるようになります。それゆえ被害者はこの時期加害者の顔色を伺って自分の行動を改めたり、自分の意見を飲み込むなど、加害者の気に障らないよう、ハラハラして毎日を送りますが、それも時間の問題で、いずれまた暴力期で暴力の犠牲になります。
ハネムーン期では加害者が優しくなるだけでなく、暴力を否定したり、被害者のせいにするなどの責任転嫁の行動も見られ、被害者は「自分の思い過ごし」、「私にも非がある」と考えて加害者の行動を過小評価したり、自分自身の行動改善が関係の修復につながると信じ、関係をとどめる意志を新たにすることもあります。このように、DVでは加害者の行動や言動に被害者が振り回され、 知らぬ間に加害者の支配下に置かれている、というような状況が出来上がります。
被害に遭っていたら
現在のパートナーや配偶者に対して、自由にものを言うことがはばかられる、行動が監視/束縛されている、相手に対して恐怖心を覚える、など一つでも当てはまれば、あなたもDVの被害者かもしれません。先述したように、DVは身体的暴力に限ったことではありません。
実際に被害者の中には一切手を上げられたことが無い人が沢山存在します。Womankindでも、相談される方の多くが「DVに当たるかわからないのですが」と前置きをして経験をお話になります。
「DVに遭っているかも?」と思ったら、まずは専門機関に相談してください。NY市には被害者支援をしている非営利団体がいくつもありますが、私の勤務するWomankindではDV被害者のほか、性犯罪や人身取引の被害者への支援も行っており、アジア圏出身の被害者に対して、彼女らの母国語で支援を行うことが特徴です。
Womankindでは3人の日本人スタッフが常勤しており、DVの被害に遭った女性およびその子どもたちに日本語で支援を行っています。支援サービスは全て無料、個人情報は厳密に保護されます。年中無休の多言語対応のヘルプライン(1-888-888-7702)では24時間いつでも相談を受け付けています。
DVでは 離婚、親権、保護命令や移民法問題など、DVの関係を去った後にも法的問題に頭を悩ますことが度々あります。そのような被害者に対して、WomankindではDVの専門知識を有する弁護士が丁寧に法律に関する情報を提供するほか、被害者の意思に沿って弁護支援を行います。「DVの関係を抜け出したいけど、弁護士を雇う費用がない」と悩まずに、まずは相談してください。本来なら配偶者からスポンサーシップを受けねば得られない永住権も、DV被害者に適用される移民救済策を用いれば、配偶者に頼らずに永住権を得られる方法もあります。
このように、専門機関に相談して初めて見えてくるオプションが沢山あります。Womankindでは法的プロセスを踏む準備が出来ていないが、気持ちの整理をしたい、という方たちの為にカウンセリングも提供しています。慣れない地で慣れない風習の中、パートナーと決別して一から人生をスタートさせることは容易ではありません。Womankindではその状況を理解し、時間をかけて被害者のペースで自立ができるよう適切な支援を提供します。最初の一歩を踏み出すのは勇気のいることですが、一人で悩まずにまずは専門家に相談してみてください。
犯罪被害者補償制度(Office of Victim Services)
最後に、DV被害者も恩恵を被ることのできる犯罪被害者補償制度について説明します。アメリカでは各州に犯罪被害者補償制度が存在し、NY州ではOVS(Office of Victim Services https://ovs.ny.gov/)の名で知られています。補償を受けるには、NY州で犯罪被害に遭っており、また、その被害が警察あるいはその他の法執行機関へ報告され記録されている必要があります。
DVが原因で切り傷を負った場合を例に挙げると、被害者が犯罪を警察に通報し、その後病院で治療を受けたとすると、申請に必要になるのは警察の調書番号と、医療機関からの書類になります。 医療機関からの書類は、医療行為を必要とする外傷が、警察に報告された事件に起因していることを明らかにする必要があります。OVSでは医療費の他、カウンセリング費用、葬式費用、 所有物の損失補填、賃金の補償などをします。申請書は被害者本人が直接 OVSへも提出できますが、 Womankindでも申請支援を行っているので、申請書の記入に自信が無い方は是非ご相談ください。支援は全て無料です。
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