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グローバル人財採用の今


〜アメリカと日本で求められる能力〜

1. はじめに

DISCO Internationalは、秋のボストンキャリアフォーラム、春のロサンゼルスキャリフォーラムを展開し、日英バイリンガルの求職者へ効率的な就職活動の場を提供している。コロナ禍の2年間もオンラインイベントで就職活動の機会を提供し続け、35年以上に渡り開催してきたボストンキャリアフォーラムは、2022年に3年ぶりに対面で開催した。本稿では、弊社の代表的なグローバル人財採用イベントであるボストンキャリアフォーラムの実績を紐解きながら、企業の採用ニーズと求められる能力ついて解説していきたい。

2. ボストンキャリアフォーラムオンライン

ボストンキャリアフォーラムとは、弊社が1987年から毎年秋に米国マサチューセッツ州ボストン市内のコンベンションセンターで開催している世界最大規模の日英バイリンガルのための就職イベントである。36年前の初開催は35社の参加企業だったが、9.11の同時多発テロやリーマンショックなど、多くの開催困難な出来事を乗り越え、今では留学経験者には欠かせない就職活動のツールとして定着している。2020年および2021年はコロナ禍の影響でオンライン開催となったが、2022年は3年ぶりに会場で対面開催を再開した。

概要と成果

ボストンキャリアフォーラムは、選考のプロセスを効率化した就職イベントであり、3日間のイベント期間中に内定を得た参加者が全体の4割以上となる。通常の就職活動よりもスピード感のある選考であることや、日本での就職活動機会の少ない留学生にとって、多くの企業が渡米し選考する当イベントは貴重な就活インフラとなっている。また、参加企業としても優秀な人財の確保に真剣だ。実に80%近くの企業は、採用決裁権者が参加しており、これは、優秀な人財であれば、他社に先んじて採用に動ける体制を整えていると言える。まさに、ボストンキャリアフォーラム会場では参加企業による優秀な人財獲得合戦が繰り広げられている。

 3年ぶりの対面開催となった2022年は146社が参加した。2年間のオンライン開催期間で対面開催に価値を感じた企業が参加をした形となった。確かにオンラインイベントは効率性や費用対効果でメリットを感じる企業も多い。一方で採用時のミスマッチの軽減や優秀な人財をグリップする動きには、どうしても熱量が必要になる。新卒採用やエントリーレベル採用で重視される「非言語」(対面でしか伝わらない雰囲気などの印象部分)の評価が改めてフォーカスされる結果にもなった。

 加えてコロナ禍の2年間でオンライン選考のインフラやノウハウが各社に定着した結果、事前にオンラインで面接や選考が実施され、ボストンキャリフォーラム会場で内定や優秀な候補者をグリップするなどの変化が見られた。したがって、パンデミックを通じてボストンキャリアフォーラムの形は、オンラインと対面のハイブリッド型にシフトしつつあり、より効率的な優秀なグローバル人財の採用ツールに進化することができた。

3. 企業のグローバル人財採用ニーズと求められる能力

事実、日本企業のグローバル人財採用ニーズは高い。では、なぜ企業はグローバル人財を採用するのか。理由としては大きく3つが挙げられる。(1)事業展開のグローバル化の加速。(2)求められる人財の多様化(組織のダイバーシティ戦略)。(3)国内採用市場の競争激化。また、採用環境の変化もグローバル人財採用ニーズの後押しをしている。

採用と大学教育の未来に関する産学協議会(経団連と国公私立大学の代表者が継続的に対話する枠組み)は、これまでの新卒一括採用の慣行を見直し、通年採用の拡大などを含めた採用手法の多様化を進める方針を示している。これにより「通年採用」というキーワードが様々なメディアで何度も取り上げられているが、この方針は単に現在の新卒一括採用の慣行を否定し、通年採用を推奨するものではない。限界を迎えた日本型雇用慣行から柔軟な雇用形態の導入、世界規模での優秀人財の獲得競争の激化、Society5.0時代に向けた高度IT人財やイノベーション人財の育成などを目的に、グローバル社会に適応した優秀な人財を確保する多様な採用形態への意識が高まっている。

日本企業が日本人留学生に求めている能力・資質とはどういったものなのか。DISCOの企業調査結果から紐解いてみる。企業に「国内学生に不足していると感じるもの」を聞いたところ、1位が熱意、 2位はコミュニケーション能力、3位がバイタリティー、4位がストレス耐性、5位がリーダーシップという結果であった。一方、上記と同じ調査対象企業に「日本人留学生に求める資質」を訪ねてみたところ、1位はコミュニケーション能力、2位がバイタリティー、3位が語学力、4位が異文化対応と続き、5位が発想の豊かさ、6位がリーダーシップという結果だった。一般的に企業が日本人留学生に求めるものは、留学経験で磨き上げた語学力や、異文化対応力などが最も多いと想定されるが、実は日本国内学生に不足していると感じているコミュニケーション能力やバイタリティーを日本人留学生に求めていることが分かる。つまり、国内学生に不足している能力・資質を期待して日本人留学生を採用したい、多くの企業がこのような考えのもと、日本人留学生の採用を進めているのだ。 一方で、米国の企業で日英バイリンガル人財を採用する企業の特徴は大きく2つある。一つは、日本人もしくは日系企業を顧客として事業展開している企業。もう一つは、今後日本へ進出する予定の米国企業。いずれも、英語能力はもちろんだが、日本語能力も求められることになる。一概には言えないが、入社後に社内で育成・キャリアアップの機会がある日本企業に比べ、ポジション採用の意味合いが強い米国企業の採用は、その職種(役職)を全うできるかの専門能力があるかどうかも、重要な要素となる。また、新卒であろうと、中途採用であろうと同じポジションに応募するため、職務経験が重要になる。もちろん新卒の場合は職務経験がない為、無給であっても「経験を積む」ために長期のインターンシップを夏休みや学期中に行うケースが多い。ただ、何より米国ポジションでの採用で重要視されるのは、採用される本人の米国での労働許可である。特に新卒者の場合、せっかく内定が出ても、1年目はOPTを利用し(STEM:Science Technology Engineering Math対象は最大で3年)働くことができても、その後は就労ビザが必要となる。H-1Bの抽選で通らず帰国を余儀なくされるケースも多くみられる。そのようなケースを避けるために、採用する企業は応募者の米国での労働許可を重視する。

4. 変化する留学生採用マーケットと
米国で働く日英バイリンガル採用マーケット

米国で学位を取得する正規留学生は近年減少する一方で、大学のグローバル化により日本国内大学からの交換・派遣留学生は増加傾向にあった。しかし、コロナ禍で人の流れは一時停止した。各国の水際対策も落ち着き、徐々にではあるが米国への正規・交換留学生も戻り始めている。特に採用マーケット内に交換留学生数は急回復するが、正規留学生数は回復までの時間を要する。これは北米に特化して見られる傾向ではなく、世界的に2022年~2025年までは留学生採用マーケットの需給バランスが崩れる可能性は大きい。

グローバル人財採用のマーケットとして、日本人留学生が枯渇すると、高度外国人財の採用/活用も視野に入る。採用企業側も採用ブランド力の向上や受け入れ態勢の準備などが必要になってくる。グローバル人財が入社後のキャリアパスを自分なりに描けるように明確に提示する必要がある。また、総合職採用の多い日系大手企業よりは、採用人数が少ないが、担ってほしい仕事や職種が明確な中堅中小・ベンチャー企業の方がグローバル人財の内定辞退率が比較的低い。また、日本企業はまだ、日本語の能力を重視している企業も多い。もちろん入社後の職場でのコミュニケーションのための「言語」は必要だが、それが日本語である必要性は今後もっと低下するのではないかと考えられるため、企業は世界で戦うのに日本語の語学力を人財に求めるという、足枷を早く取り払わないと、世界の優秀な層の人財獲得戦争からも置いて行かれるのではないかと懸念される。

米国で働く日英バイリンガルの働き方に対する価値観は、このコロナ禍で大きく変化した。現在の働き方の多様性・柔軟性を求める労働者に対して、日系企業がどこまで柔軟に労働者市場のニーズに応えられるのかが、社員の引き留めに重要な要素となる。H1-B就労ビザの申請数に関しても、パンデミック前と比較して大幅に増えており、ビザサポートの難易度は増している。したがって、引き続き米国就労権を持つビザサポートの不要な日英バイリンガル人財ニーズは高止まりしそうだ。

弊社としても、この2年間で培ったオンラインでの就職機会の創出をできたことは大きな財産だ。今後は培ったオンラインでの効率的なグローバル人財の採用企画を継続するとともに、新卒やエントリーレベルのポジション採用で重要視される「非言語」(対面でしか伝わらない雰囲気などの印象部分)の評価に必要な対面式の採用・選考機会をキャリアフォーラムで復活・拡大させる。そして、オンライン・イベント・人財紹介で企業の採用ポジションやそのポジションの特性に応じて、多様化した採用ツールから世界中の優秀な人財にアプローチ・採用できるサービスを全世界で展開していく。さらに、高校生・大学生の留学前のキャリア教育や、日本で就職を考える米国で学ぶ学生に対してのキャリア教育にも力を入れていく。「優秀な人財は国境を超えて活躍する」そんな時代を目指して。

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大掛 勲

大掛 勲
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