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セクハラ防止トレーニングの改革
現在、法律で企業にセクハラ防止トレーニングを義務付けている州がアメリカには6つほどあります。カリフォルニア(CA)、ニューヨーク(NY)、イリノイ(IL)、デラウェア(DE)、メイン(ME)、コネティカット(CT)の6州です。しかしながら全米にちらばる残りの44州ではそのような法律はいまだ制定されていません。では法律が制定されているこれら6つの州では、セクハラ防止トレーニングを義務付けすることによってセクハラ発生の件数は減少しているのでしょうか。驚くことにセクハラトレーニングなどはまったく実施されていなかった80年代と比べてみましても、まったく減少していないという調査結果をハーバード大学の教授が発表しています。逆に女性のマネジャーの数自体さえも最近は全体的にアメリカでは減少傾向が見られるというのです。本当であれば、これはにわかには信じられないような憂慮せざるを得ない報告だと申し上げられます。
セクハラ防止トレーニングのみならず、現在ほとんどの企業(ハーバード大によると95%)ではセクハラが起こった際に報告を出すことの出来るセクハラ苦情処理制度が社内で設けられているということです。それでもセクハラの件数自体は減ることもなく、女性マネジャーの登用にも効果が見られていないという切実な問題がコーポレート・アメリカの世界には存在しています。このような報告があったのを知ってか知らぬか、セクハラ防止トレーニング義務を法律で課そうとする州の数も増えていません。結論からいうと、法律でセクハラ防止トレーニングを義務付けようが義務付けまいが、セクハラ苦情処理精度を社内で設けようが設けまいが、セクハラ自体を減少させるような目に見える効果は残念ながら出ていないという現実が垣間見られます。
今回の記事は日系企業様にセクハラ防止トレーニングを提供している弊社ならびに私自身の自省と自戒とを込めて、なぜセクハラが企業内で一向に減少していないのかを探ってみたいと思います。まず申し上げられることは、法律でトレーニングを義務付けられている州で従業員を雇用している企業では特に、恐らく法律だからといって仕方なくトレーニングを提供しているだけなのかもしれないという推察です。つまり「仏を作って魂入れず」の状況だと申し上げられます。その証左として多くの企業では州の雇用規制当局(CAはDFEH: Department of Fair Employment & Housing、NYはDOL: Department of Labor, ILはDHR: Department of Human Rightsなど)が提供している無料ビデオを従業員各自が勤務時間内に見るということのみで州のセクハラトレーニング義務の法律に対応している企業が多いのではないかと察せられるのです。
トレーニングは1回行えさえすればそれで、はい終わりではないですし、法律で義務化させている州ではいずれも継続してトレーニングを行うことを企業に要求しています。確かに最初は州が無料で提供しているビデオを見せることでのトレーニングでも構わないかと存じますが、次回も同じビデオを見るだけでの繰り返しのトレーニングでは企業としてはいくらなんでも能がありません。各州が作っている無料ビデオを批判するわけではないのですが、トレーニングをどんな形であってもやりさえすればよしとする姿勢であったのなら、州が作った無料ビデオを毎回見させておしまいということになってしまうのかもしれません。これが前述した「仏を作って魂入れず」の実態ではないかと指摘する理由になります。
CA州とNY市が規定しているセクハラ防止トレーニングの中ではいずれも「第三者介入」(Bystander Intervention)の項目がつけ加えられており、トレーニングでカバーされねばならないとされています。第三者介入というのは、もし職場で誰か不適切な言動を発した者がいた場合、その場に居合わせた人が異議を唱え、注意を与えるという、至極当たり前なアプローチだといえる研修項目です。「第三者」とは誰でもその当事者になりえる可能性があり、実際にセクハラの場面に出くわした際、たとえば下品で性的なジョークで部下や同僚をからかったり、まだ職場で出会ったばかりの上下関係のある男女二人が会社のパーティでほろ酔い加減になって一緒にどこかに抜け出そうとしているところに声をかけて注意するなど、誰もが適切なトレーニングを受けて少しばかりの勇気を持ち合わせていさえすれば、初期段階でセクハラになる芽を摘むことができるというものです。
こういった誰にも当てはまる可能性のあるところをないがしろにして、あまり起こりそうもないような現実的とはいえないケーススタディをいくら並び立てたところで、効果的で実効性のあるトレーニングにはならないでありましょう。つまり、いくら法律でトレーニングを義務化しても効果的ではなく実効性の少ないトレーニングだけでは一向にセクハラ減少にはつながっていないということは明白なのです。トレーニングに第三者介入の項目を積極的に取り入れた300以上の大学やアメリカ陸軍ならびに空軍では明らかにトレーニングの効果が如実に現れ、セクハラは端的に減少傾向に向かっていることが分かっています。
最後により効果的なトレーニングの秘訣は、受講する従業員の話す母国語で行うということが肝要になります。連邦行政機関であるEEOC(Equal Employment Opportunity Committee: 雇用機会均等委員会)から出されているセクハラ防止トレーニングに関するガイドラインには従業員が日常的に使う母国語での研修を企業は提供することが望ましいと推奨されています。せっかくトレーニングを行ってもそれが従業員にとっては外国語としての英語であった場合、さらに異文化的なギャップも加味されて内容の理解度が半分にも満たなかったというのでは、トレーニングの効果はやはり期待出来るレベルにはなりません。こういった事情や背景をトータルで鑑みれば、いくらセクハラ防止トレーニングを法律で義務付けてもセクハラは減少していないというに逆説的な結果にたどり着いてしまいます。今こそ「仏を作って魂入れず」の凡庸なトレーニングの限界を打破し改革しなければならない機会到来に至っているのではないかと思います。
タグ: セクハラ, セクハラ防止トレーニング
酒井 謙吉 / Ken Sakai
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